03福祉事業のこと
それにしても……HPで拝見していた写真はギラギラ系、かなりあくの強いイメージでしたが、実際の佐野さんは、キャラはたっているもののさっぱりさわやか。人って、実際に会って話してみないとわからないものですね(笑)。
いいも悪いも、暑苦しいイメージのようで……そうしたパッと見の印象が独り歩きして、派手にやっているとか、相当利益が出ているなんて噂になったり(笑)。かと思えば、「福祉事業をしている佐野さん」ととらえている人もいて。断片的な情報から想像が膨らんでいって……ちまたには、いろいろなバリエーションの佐野圭太が存在しているようです。こう見えて僕、本当は古風なんですよ。ちょっとしたやり取りもLINEなんかで終わらせず、手紙を書いたり、菓子折り持って訪問したり。やることなすことけっこうきっちり、古臭いんです。
正直、福祉事業もイメージにありませんでした。
35歳で青年会議所に入会し、地域の一経営者という視点が備わったことが始まりです。それまでは、軌道に乗せることや利益を出すことなど、会社内部にしか目がいきませんでしたが、自分のやっていることは地域のためになっているのか、どうやったら地元の役に立てるのかを考えるようになり、そんな折に目の当たりにしたのが、福祉の課題でした。厚生労働省の発表だと、障がいを抱えている人は日本全人口の7%くらい。これはつまり、何千人という単位で、この地域にも暮らしている人がいるということです。でも、居場所がないから影を潜めざるを得なかったり、受け皿がないため活躍できなかったり……。法定雇用というルールがあるにもかかわらず、なかなかスムーズにいかない現実を、僕は知ってしまったのです。
とはいえ、それまでまったく縁のない分野に、いきなり入っていくのは無謀なのでは!?
「私が死ぬ一日前に、障がいを抱えたこの子が亡くなることを望んでいる」と、あるお母さんの声を聞いたときは、本当に衝撃でした。障がいの事実を受け入れること、それとともに生きていくことがどれほど大変なことなのか……それを思うと、いてもたってもいられなくなってしまって。学んだり働いたり、障がいを抱えた人たちが安心して暮らせる土地にしなくちゃいけないと、大きく心動かされたのです。でも周りを見渡すと、こうした地域の課題に着目はしているものの、身動きできない人ばかり。百年以上続く老舗とか、大グループの会社には、守らなければならないものがたくさんあって、新たな分野にはそう簡単に踏み出すことができません。じゃあ、仲間たちの協力を得て、動ける人間は誰なのか? そう考えた時、思い当たったのはまさに、自分自身。ならば僕が地域の課題に乗り出そうと、そうしてスタートさせたのが福祉事業だったのです。
実際、取り組み始めていかがですか? 障がいと言ってもいろいろな状況があって、どうとらえるべきか、どう関わるべきか……かなり難しそうです。
とても根深い問題で、当然ながらひと筋縄ではいきません。何が正解で間違いなのかもわかりません。それでも、まずは知ってもらうこと。僕らがやろうとしていることは、障がいを抱える人たちと関わる中で、感じたことや学んだことを正しく発信することだと思っています。関係ないから知らない、わからないから無理とそっぽを向いている世の中に、何でもいいから一石を投じたい。我がこととして考えられる土壌を育みたい。何か大きな改革ができるなんて、これっぽっちも思っていません。でも、できることはコツコツと。ほんの少しでも知ってもらえることがあればきっと、状況は動いていくはずですから。僕は経営者仲間にも、ぜひ現場を見に来てほしいと、積極的に声をかけているんです。
周囲の反応はいかがですか?
驚かれたり、感心されたり、理解されなかったり……実にさまざまです。でも一生懸命説明すれば、「協力はできないけれど認識はした」とは、言ってもらえる。今はただ、それだけでも十分だと思っています。これからも、遠巻きに眺めている人たちに少しでも興味を持ってもらうため僕は、何十回何百回と説明を繰り返す覚悟です。そうやって、この地域にもさまざまな人が存在していることを知ってもらいたい。そして次に、いろいろな人が分け隔てなく関わり合える、共生社会を作っていきたい。これからの時代は、誰もが活躍できるコミュニティを目指さなければならないと思っています。
佐野さんの思いは素晴らしいけれど、でも、理想だけでは経営は成り立ちません……。
僕は、一瞬を生き、人のために天命を尽くす、武士道の精神が大好きです。あと、我が社のモットーは「先義後利」。先に義をとおして、利益はあとという精神でやっています。そう言うと、「理想主義」「きれいごと」なんて言われてしまうかもしれないけれど、これらはかっこつけでも強がりでも何でもなくて、さまざま失敗を繰り返した果てにたどり着いた、揺るぎのない真理なんです。だから僕は、結果を急ぎません。ただし、義と利の配分は、51対49という感じ。この、たった1%のさじ加減が何より重要で、比率が入れ替わってもいけないし、差が開きすぎてもウソになってしまう。会社は慈善事業でも、自己満足の道具でもありませんから、僕はこうしたギリギリのところでバランスをとっていきたいと思っているんです。精神一辺倒、金銭一辺倒、どちらにも偏ってはいけません。