「社長ってどういう人?」
「いつもどんなことを考えているの?」
などなど、
もっと知りたい、教えてと、
社内外から聞こえてきた、数々の声……。
そうしたリクエストに応えるべく、
企画されたのがこのインタビュー!
よくわからないという人にはもちろんのこと、
昔から知ってるよという人にもあらためて、
社長のリアルな姿や胸の内を、
あますところなくご紹介します。
■インタビューアー : ハルノ コトリ
Profile 元雑誌編集者、現ライター。学者、作家、芸能人、クリエーター……と、これまで、さまざまなジャンルの人物を数多取材。インタビュー記事から占い原稿まで、幅広く執筆している。10年前より長浜市在住。琵琶湖を眺めながら、動植物とともにのんびり生活中!
インタビューに際し、HPやブログ、事細かに作ってくださったプロフィール資料を拝見しましたところ……まず感じたことは、なんて無謀な人なんだ、と(笑)。経営者に度胸は不可欠ですが、若かりし頃はあまりにも怖いもの知らずというか、佐野さんの経歴にびっくりしちゃいました。
ハチャメチャですみません(笑)。会社を立ち上げ、商売を始めた頃の僕にあったのは、ビジネスに対する展望なんかじゃなくて、勢いと物欲だけでして。所得を増やしたい、車が欲しい、ブランド物を身に着けたい、おいしいものが食べたい……と、私利私欲がすべての原動力。しっかりした目標があるわけじゃないから、一気に数字の上がりそうなもの、おしゃれだったりかっこいいだけのものに飛びついたり、よからぬ皮算用ばかりでした。だから、いろいろなことに手を出しては、うまくいかないの繰り返し。30歳で起業して、2年間くらいは本当に苦しくて、給料の支払いで精一杯。私腹を肥やすなんて夢のまた夢、5年くらいまでは、経営者と呼べるような状況ではなかったですね。
そもそもなぜ、経営者という道を選んだのでしょうか?
うーん……それしか選択肢がなかったからでしょうね。有名大学の出身でもないし、特別なスキルを有しているわけでもないし、コネもゼロ。だったらもう、自分でやるしかないじゃないかと。父親がかつて会社を経営していたことも、少なからず影響があったのかもしれません。もちろんいきなり社長だなんて、リスキーなのは百も承知でした。僕だって本当は、経営に携わることができる、二番手三番手のポジションが理想だった。でもそこを目指してどこかの会社に入ったとしても、実力はもちろんのこと、どうやったって時間と年数が必要になってくるわけです。しかもがむしゃらに頑張ったところで、その地位に行き着ける保証はまったくなし。そんなことを考えたら、一番結果を出しやすいのが社長だな、と。……安易でホント、すみません(笑)。
利益は出ない、借金は返せない、人は居つかない、店舗を出してはたたむの繰り返し……と、いろいろなことを経験されていらっしゃるようですが、そういう不安定な生活、怖くありませんでしたか? やめたくなったことはないのですか?
図々しいのか鈍感なのか……僕、ギリギリの中でも案外、平常心で暮らせてしまうんです。何百万、何千万という借金を抱えていたって、食事もしっかりのどを通るし、ぐっすり眠ることができる。先の見えないことに挑戦するにしたって、不安よりワクワクややる気がのほうが先行してしまいますし。世間一般からはズレまくっていますが、そういう意味では経営者向きなのかもしれません。あと僕は、たとえどうにもならない状況に陥ったとしても、「どうしよう」とあたふたするのではなく、「こうなってしまったのはしかたない、とにかく何とかするしかない!」と思っちゃうほうで。失敗に失敗を重ねてはいましたが、辞めるという選択肢はありませんでした。
なかなか軌道に乗らない経営状態……何が一番の原因だったのでしょう?
人の話を聞けなかったことじゃないでしょうか。あの頃の僕は利己的で、根拠のない自信にあふれておりまして……自分の思うとおりに動いてくれれば間違いないんだからと、イエスマンしか認めることができませんでした。もちろん、考えも経験も浅い若造のワンマン経営に結果がついてくるはずもなく、人が次々去っていきました。そんな現実を、反省することも改善することもなく、ただただ突っ走るのみ。いろいろ意見してくれる人もいましたが、そんな言葉も耳に入ってきません。だってそれを受け入れてしまったら、自分の間違いを認めることになってしまいますから。あの頃の僕は僕自身を、「間違っていない」「正しいんだ」と、何としてでも正当化したかったのでしょう。でも、どんなに粋がったところでまったく結果はついてこない。さすがにこれはヤバいぞと、最終的には自己改革に思い至るのですが……自分で自分のマインドを変えるって、実はとっても難しい! ものすごく追い込まれているくせに、そう簡単には改心できないんですよ。
では何が、佐野さんを変えてくれたのですか?
人の言葉です。僕よりもたくさん苦労をされて、僕よりも高く険しい山を必死で登っている方々がこぞって、ああでもないこうでもないと、僕なんかのために一生懸命考え、アドバイスしてくれるのはどうしてなのかと……ある時ふと、耳を傾けてみたくなりまして。それまでの僕には聞く耳なんかまったくありませんでしたが、現状は、失敗だらけの八方ふさがり。そこまで行き着くともう、自分が正しいなんて言ってられないし、万策尽きていますから、何の抵抗もなくすんなりと話を聞くことができた。でもそれからですね、いろいろなことがガラリと変わったのは。
たとえば、どんなところに変化があったのですか?
「自分がちゃんと商売できるように、この先も商売が続いていくように、社長だったら休まず頑張らなくちゃいけない。それには、体調不良になっているひまなんかないんだぞ!」と先輩に言われたから、大好きなタバコもギャンブルもお酒もすべて、あっさり辞めてしまいました。そうしたら、いろいろなことが健全に回り始めて。自分で自分を動かすのはなかなか大変だけれど、人の言葉って、タイミングよくカチッとハマるとものすごく威力があるんですよ。しかも、一度聞く耳ができれば、どんどん自分を変えられる。生活態度から物事の考え方に至るまで、人と向き合えるようになって、次々転機が訪れました。
もう少し早く人の話を聞けていれば……失敗しないで済んだのかもしれませんね。
失敗を繰り返して実際に痛い目をみたからこそ、すんなり話を聞けるようになったんだろうし、ひとつひとつの言葉がしみるようになったんだと思うんです。だから僕は今、かつてのやんちゃだった自分を否定しません。迷い、のたうち回った過去は偉大なる学びの時期で、かけがえのない、財産。スクラップ&ビルドの経歴はそのまま、自分構築のプロセスだったんだと、肯定的にとらえているんです。
失敗も、人生に欠かせない大事な要素なのですね。
うまくいかない経験は、見栄とか物欲とか、そうした余計な部分を少しずつ少しずつ削ぎ落としてくれました。そうしたら徐々に、目指すべきものが研ぎ澄まされていって……。僕はそうやって、ブレずに会社を続けるための、守るべき信念を見つけることができた。数々の失敗の果てにしか、大切なものは見えてこないのかもしれません。